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有限次元タイヒミュラー空間は, 3次元双曲多様体の構造の研究の際には強力な(数学的)道具になります. 逆に,3次元双曲多様体(クライン群)の変形の研究は, 有限次元タイヒミュラー空間の構造の研究の際には重要になります. さらに,
- 双曲曲面(リーマン面)の退化
- 双曲多様体・クライン群の退化
- 曲面上の種々の幾何構造の退化
などは相互に関連します. 私はその相互関係から現れる『疑問』を,基本的な研究の指針・指標としています.
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タイヒミュラー空間上の正則関数を考えると,クライン群論の視点では,トレース関数のような正則変形で自然に現れる正則関数を俯瞰的に研究していることになります.
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一般に,クライン群によるリーマン面の一意化により,クライン群の変形空間はタイヒミュラー空間の商空間と考えられますが,タイヒミュラー空間の商空間としての同一視の際には超越的な話(Ahlfors-Bersの可測リーマン写像定理)を通るため,実際にトレース関数のようなクライン群の変形から現れる関数をタイヒミュラー空間上で考えることは難しいです(少なくとも私には難しい),
- 実際,クライン群による一意化は射影構造との関係が深く,タイヒミュラー空間(つまり,標識付きリーマン面のレベル)でどの程度扱うべきなのかは,研究対象により見極めなければなりません.
- ガーディナーの公式という,奇跡的な公式があり,トレース関数(複素移動距離)の微分は内在的視点(タイヒミュラー空間の立場)からなんとなくわかります.しかし「なんとなく」であって完璧になんでもわかるわけでもないと思います.
- 内部の双曲構造の変形と境界の射影構造の変形の関係は,例えばBrombergなどにより研究されています.
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このように書くと,無限次元タイヒミュラー空間が仲間はずれのように見えますが, そうではないと信じています. つまり,
- 上記の研究の指針に従って勉強・研究しているうちに,無限次元のタイヒミュラー空間(解析的有限でないリーマン面の変形)を用いたほうが理解しやすいのではないかと思われる状況
- 無限次元のタイヒミュラー空間(解析的有限でないリーマン面の変形)で考えたらどうなるのだろうという状況が出てきてしまった.
- 無限次元のタイヒミュラー空間が勉強できる, と想像しただけでワクワクしてしまった. 実は,(今から考えるとそれは誤解だったのだけど)当初, 無限次元のタイヒミュラー空間の研究から「一見さんはお断り」という雰囲気を私は感じていたので, 研究との関連がないととてもじゃないけど手を出せなかった. つまり,指をくわえて眺めているだけだった.
- あれ?やってみると意外と楽しいぞ.な〜んだ,なんとなくわかるじゃないか.
という訳です. このようなことですので, 心の奥底では上記の研究と関連しています.